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薔薇ノ花束君ニ


ジャンサイド1

俺、ジャンカルロがCR−5二代目カポに襲名されてから早くも半年が経った。
襲名の儀を行ってからは、偉そうにしてる役員のクソジジィ達やら堅気の有力者やら取引のあるマフィアのボスへの挨拶周り。
それに加え、カポとしての仕事を覚えたり側近や部下を決めたり…あぁ、後未だにマナーだとかを口煩く叩き込まれてるな。
このマナーの中でもテーブルマナーが一番嫌いだった。勿論、今でもそれは変わっちゃいねぇ…。
食事なんか旨く喰えれば良いじゃあねぇか!!と歯向かってみたが、
口煩いあいつ…CR−5幹部筆頭ベルナルド・オルトラーニが許すわけがないのは言うまでもない訳で…。

「カポ・デル・モンテ、貴方は我々CR−5のカポなんですよ?皆の前に立ち、手本となる存在なんです。ですからマナーくらいは完璧にしていただかないと。」

キィーー!!今思い出してもベルナルドの澄ました口調と面が腹立つ!
ベルナルドは俺を指導する場合や幹部以外の部下の前では敬語だ。しかも、馬鹿にされている気がするほど慇懃無礼だ。
その態度がますます俺のカンに障った。
俺とベルナルドは、その…こっ恋人同士ていう関係だったりする。あー!自分で言っても恥ずかしいぜっ…。
男同士だのなんだの問題は山ほどあるが、色々あって今は恋人だ。
まっベルナルドが俺にベタ惚れなんだけどな。
だから余計にベルナルドの慇懃な態度や口調が腹が立った。
普段は俺が話を聞かなかったくらいでしょげるくせしやがってあのチョイダメオッサンめ。
他にも色々とベルナルドに対しての不満だけじゃなく、意外と予想以上にカポとしての仕事がキツイこともあって俺はストレス発散を兼ねてベルナルドをからかってやることにしてやった。


Side B

ジリリリリン!ジリリリリン!
激しく鳴り響く電話のベルの音でCR-5筆頭幹部ベルナルド・オルトラーニに目を覚ました。
目が覚めるのと同時に、昨晩はこの執務室でそのまま眠ってしまったことに気付いた。

(あぁ…昨日はジャンにキスどころかおやすみとさえ言ってないなぁ)

ぼんやりとした思考のなか、くだらない惚気たことを考えならがさっきから執拗に鳴り続けている電話の受話器を取った。

「もしも…」
「遅ぇーぞ!このハゲオヤジ!てめぇのその髪引っこ抜くぞ!」

言い終わる前にイヴァンの罵詈雑言が飛んできた。
疲れている時にイヴァンの言動は流石にベルナルドでさえ辟易してしまうものだ。
まして悪気があってしているんではないと理解しているから尚更だ。
ベルナルドは深い溜め息の後、用件を聞きつつ頭の片隅でボスでもあり恋人であるジャンへ想いを馳せていた。

電話を済ませて時計に目を遣ると時刻は8時だった。
自然とベルナルドの目元が優しく細められる。
時計の指針は8時をちょうど過ぎたところだった。
ベルナルドには毎朝、寝起きの悪いジャンを起こすという日課がある。
ジャンは放って置くと昼まで寝てしまう節がある。
いくらマフィアのボスでも昼間まで寝てだらし無く重役出勤では部下達に面目が立たない。
ボスとは常に人の上に立つ存在だ。それなりの面子は立てなければならない。
その為、ジャンがカポ就任後からベルナルドは口煩くマナーから起床から就寝に至るまでの様々な振る舞い方をスパルタで教え込んでいる。
自分でも口煩いとは思っているが、全てはジャンの為だ。
ジャンの為なら鬼にだってなれる自信がベルナルドにはあった。
だが、どうやらジャンはこのスパルタ教育を良く思ってはいない。
叱ることが増えたせいか最近では膨れっ面ばかり見せるようになった。

「俺は笑った顔のお前がみたいよ」

自嘲にも似たため息と独り言をぽつりと零し、ジャンの眠っている寝室へと足を向けた。

ジャンの寝室に辿り着くまでに何人もの部下達とすれ違い、その度に挨拶を交わしたり指示を出していたら普通に行けば5分と掛からない距離に倍近く掛かってしまった。
いつものことながら忙しさにため息が出る。
寝室の前に行くと、ベルナルドがよりにすぐりによりすぐった信頼出来、優秀な部下がその寝室を護衛していた。

「ご苦労。ボスはまだお休みか?」
「おはようございます。ドン・オルトラーニ。はい、カポ・デル・モンテはまだお休みかと」
「やれやれ。困ったボスだ」

口では呆れ返ったような素振りだが、目元と口元が緩む。

「俺がボスを起こすからお前達は持ち場に戻れ。用が出来ればすぐに呼ぶ」
「了解しました」

守衛役を退かせ、ベルナルドは控え目なノックとともにジャンの寝室に入った。



2へ続く。