top
薔薇ノ花束君ニ 2


サイド−G


朝7時。
いつもなら、俺が爆睡している時間だ。
まだ眠くて瞼が重い。けどこれが、今日から始めるちょいダメオヤジことベルナルドをイジメる為の大事なファーストステップだ。
別に20半ば過ぎの大の男が一人で起きたからってどうってことはない。
むしろ起きれない方が世間的にはあまり宜しくない。
自分でもだらし無いとは思う。
が、このだらし無さを可愛いだの愛しいだとか言い、世話を焼くことが好きな変わり者がいる。それがベルナルドだ。
ベルナルドは元もと俺に甘かった。別に自惚れてる訳じゃない。
現に、ルキーノがちょっと派手に金を使ってしまいファミリーの経費として処理したい時は必ず俺にベルナルドを説得して欲しいと頼んでくる。
ルキーノが俺に頼むのはカポだからじゃない。
ファミリーの資金管理・運用をしているのはベルナルドだ。
俺はファミリーのカポという立場だが、財布に関していえば実質的カポはベルナルドになってる。
ベルナルドはかなり数字に厳しい。
俺がカポ就任後、ルキーノが四方八方と景気付けに使う交際費には特に厳しく取り締まっていた。
ルキーノのもそれを承知で遣うから質が悪い。ただルキーノが使っている金はいずれファミリーのためにもなる。だから俺もベルナルドを説得するんだけどな。
ベルナルドもそれを解らないほど老いぼれちゃあいねぇが、どうも0の数が…多いのが気に入らないようでお小言が多い。
このお小言が嫌でルキーノは俺に頼む訳だけどな。
俺がちょっと

「頼りにしてるぜ。俺にはお前しかいねぇんだから」

とかなんだか言えば、あのちょいダメオヤジはコロッとご機嫌になって経費の話は許可するし、顔面の筋肉ゆるゆるにして喜びやがる。

確かにこの言葉は本心で嘘はない。

だけど、このベルナルドのベタ甘なとこは心底心配だ…。
これが相手が場末のホステルとかだったらこのちょいダメオヤジの財布は穴が開くどころじゃあ済まない。
本当に俺で良かったぜ!!とつくづく思う。
ベルナルドの俺への甘やかし武勇伝は有りすぎて思い出すだけでキリがないが、その甘やかしのなかでもベルナルドが気に入ってるのが俺を毎朝起こすことだったりする。
朝起こすくらいなんだとか思うだろう。ベルナルド本人もただ起こすだけだと言っている。でも、俺は知ってる。ベルナルドは毎朝俺を起こす前に、寝ている俺にちょっかいを出してる。
抱きしめたり、キスをしたり、ただ寝顔を見ているだけとか。
俺も気付いたのは3ヶ月前くらいだ。
毎朝恒例と思われる抱擁が、その日は少し激しく熱っぽかった。始めは寝ぼけてたのもあって何がなんだか解らず放心状態だったが意識の覚醒とともに今の状況を把握した途端、恥ずかしさのあまり狸寝入りしてしまった。


「ジャン…愛してる。…ジャン…」


消え入りそうなくらい小さな声だった。慈しむように触れられ、時折囁かれる愛の言葉。あぁ…俺って愛されてんだなぁーと凄く実感した。と、これが初めてベルナルドの悪戯に気づいた時の感想だった。
その翌日、ちょっとからかってやろうと悪戯心に火が付いて薄らと目を開いた。
今思うと様子見みたいなことをせずガッと目を開けてれば良かった…。
目を開いた狭い視界のなかには、どこか不安と焦燥が入り混じった眼をしたベルナルドの顔がそこにはあった。
その表情で俺は瞬時に気づいてしまった。
ベルナルドの不安を。


3に続く。